わたしは 外国の日本人学校にいた。



そのとき、ある先生が、

たいへん不適切な教師だということで、

うわさになったことがあった。



かりにD先生としよう。




D先生は、ごく普通の、やや髪の薄い、気の弱そうなおじさん先生だった。

わたしの学年とは直接関係がなかったので、わたしは詳しくはよく知らなかった。

ただ、せまい世界で、わたしの母親とかそのあたりの世界では

D先生はもっぱらの評判であった。


D先生がいかに不適切であるか噂話に花が咲き・・・・・

D先生の今日のご様子は・・・・

まあ、ひどい、最悪ね、大事な子供を預けておけないわ・・・

D先生をいかにして担任から引き摺り下ろそうか・・・


といったようなことが しきりに語られていたのを 

よく覚えている


  そのときの全校の文集

  D先生のとなりには なぜか「副担任」とついた教師が 立っている


そのひとの話をしてはいけない。

だけどだれもがそれを知っている。


熱射病の一歩手前のいけない気分。

朝の朝礼のとき、D先生をそっと見てみる。

D先生はいつも変わらず、ツヤツヤっとした額をして、ひょうひょうと前を見ている。

校長先生のお話の後ろで、

D先生、あれが不適切だとうわさされている、あれがD先生・・・

わたしは 見てはいけないものを見るように

一生懸命 見つめていた

見ていると自分が斬られているみたいだった。

苦しかった。

でも いちばん 忘れられない・・・・。



ああ

それは自分にはちっとも関係のないことだったのに

ある音楽にあわせて踊るレクリエーションのときふっとD先生のことを考えてしまってから

そのメロディーを思い出すときいつも D先生を思い出すこととなった

いまでも・・・・

ああ、そうだ、D先生のクラスは生徒がちっとも言うことを聞かなくて

D先生が追い出されて廊下に立っていたのを見た・・・


また、親たちがそんな風景を見て、


また、親たちが悪口を言うんだろうな、と


それをとっても聞きたくないように思って


そんな 親が誰かの悪口を言うのを聞いてしまうという


苦痛を 思い出す・・・・


D先生で思い出す

D先生に関係付けられたメロディーでも 思い出す

D先生に関係付けられた漫画でも・・・・

・・・とにかく 何でも 思い出す

いやな思い出、悲しい思い出、自分にはちっとも関係のないことなのに。


  ・・・D先生は いま どうしていらっしゃるのでしょう?


すべての人の思い出に沈みこんで、浮かび上がらない存在がある

だけど低音をずっと奏でている 耳を澄ませば聴こえてくる・・・

あの額だけが

ピカピカ

輝いているのです